パリは、雪こそ降りませんが、グーンと冷え込んでいます。
そんな寒さにも負けず、かつて一緒に働いていた友人達と会う為にお出掛けした私。
4時頃には帰宅するつもりだったのに、久しぶりだったせいもあって積もる話が止まらない。
昼食後は、場所をかえて、お茶もご一緒に…。

でも、まだかろうじてラッシュの時間帯にはなっていないっていうのに、何故か駅のホームに人が溢れている….。
....っていう事は、電車が遅れているって事なんでしょう。
こんな状況も、あの11月のテロの前迄は「あぁ~、又、架線故障!?」で終わっていたのに、あれ以来、すぐ頭の中によぎるのは「もしかして爆弾?それとも何かあった!?」です。
でも、アナウンスは「XX行きは、現在L駅、YY行きは、N駅です」のみで、何があったかは
不明のまま、やっと来た電車に乗りました。
次の駅でかなりの人が下車され、運よく座った私の目の前に同じ様に座った若者2人。
隣同士に座って、小声に話しながら手は携帯でメールチェックしている今時の若者の一人が、誰かに似ている????
そう、そう、V6の岡田君でした。

勿論、日本人ではなく、フランス人の岡田君ね。
そのうち彼の携帯が鳴り、表示される名前を見た途端、とろけそうな笑顔になったフランソワ岡田君(勝手にネーミングしちゃいました)、小声で話し始めました。
ところが、しばらくすると、なぜか急にテンパリ始めたフランソワ岡田君、さっきまでの小声も
一変し、やたら「待って!待って!嘘じゃないから」を繰り返し始めました。
何、何?一体、どうした!?フランソワ岡田君!!



運の悪い事に、シャルル・ドゴール駅からデファンス駅までは、電波の関係で携帯が通じない事が多い。
多分、そのせいで相手の声が聞こえなくなったのでしょう。
さらに焦って何度も電話番号を押すフランソワ岡田君に疑問を持ったらしい隣にいる友人が
「どうしたんだよ?」の当然ながらの質問。
今やすっかり野次馬おばさんと化した私、しっかり彼らの会話を聞いてしまいましたわ。
どうやら電話の相手は、フランスワ岡田君の彼女らしく、ママに車を借りて彼女を迎えに行くと前日に約束してしまったらしい。
つまり、ママから借りられるかどうか分からないのに、カッコつけてしまったのね。
やっと電波の通じる所に来て電話をしたら、多分彼女から「何で私が話しているのに、電話を切るのよ!」と怒られたらしく、必死になって事情を説明しているフランソワ岡田君。
「車は、ママに都合を聞くからさぁ、大丈夫だって!とにかく連絡するから待ってよ。ウイ、ウイすぐに連絡するから」なんて言っているフランソワ岡田君の隣で、さっきからそんな電話のやりとりをニヤニヤしながら聞いていたフランソワ岡田君の友人。
ちょっと悪戯したくなったらしい。

電話しているフランソワ岡田君にグ―っと顔を近づけると、急に女の子のような高い声を出し甘えた感じで「私と一緒に、映画に行くって言ったじゃない?ウソだったのぉ」と言いました。
あわてて電話口を押さえたけれど、もう遅い!

多分その声が、彼女の耳にも、しっかり届いたんじゃないかしら?
「今?友達と一緒だよ。違う、違う、男の友達だよ」と、さらに悪ふざけしようと顔を近づける
友人に「やめろよ!」と声に出さずに抗議しながら、必死になって彼女に説明をしていました。
ずっと地下を走っていた電車が、外の景色も見える地上に出ると、すでに外は暗くなっていました。
「ダメだよ。もう暗いし..、ウイウイ、絶対迎えに行くよ」と、さっきの悪ふざけのせいですっかり誤解したらしい彼女のご機嫌をなおしてもらう方が先になり、ママに電話するどころじゃない
フランソワ岡田君。
そんな恋するフランソワ岡田君を、襲ったさらなる不運。

それは、同時に、私に襲った不運でもありましたけどね。
外が見えるお蔭で何だかホッとした気分になるいつもの駅に着きましたが、乗客の乗降後、発車する筈の電車のドアが閉まらない。
運転手さんから「ドアが閉まりませんので、ご協力ください」と、何度も車内アナウンスがありましたが、ギュウギュウ詰めの状態ではないのに、全くドアが閉まらない。
何度も発車する音は鳴るのに、一応閉まる努力はしているらしいドアが、プシューと情けない音を出し“閉まらないよぉ”を訴えている。
12.3分位、そのままの状態が続いたでしょうか?
結局、ドアは閉まらず「ドアの故障につき、全員下車してください」とアナウンスがあり、乗客全員、寒い駅のホームに降ろされる事になりました。
“でも単なる接触不良で、すぐに乗ってくださいっていうかもしれない”と、降ろされた乗客の
ほとんどが思ったらしく、ホームに降りても、ドアとの距離は1歩で行ける位、かなり近い。
日本ではお馴染の「白線の後ろまでお下がりください」のようなアナウンスがありましたが、誰も聞かない…。

イライラした駅員の方が、何度も往復しては「この後ろのところまで下がってください」を繰り
返していましたが、駅員の方がいなくなると又電車のドアに近づくという状態。
やっとドアが閉まり、そのまま電車は、車庫に行ってしまいました。
“次の電車に乗れるのかしら?”と不安になりながらも、野次馬おばさんとしては、フランソワ岡田君が気になる。
周りを見回したら、暗~い雰囲気のうつむき加減のまま、又もや電話中でした。
「電車が故障した」と、彼女にこの不運な故障を説明しているのでしょうか?
それとも、この動かない時間を利用して、やっと彼女の為に「車を貸して」と、ママに電話しているのでしょうか?
ホームは、今の故障した電車に乗っていた人達や、元々この駅で電車を待っていた人達で、ドンドン人が増え、もうフランソワ岡田君達の姿も見えなくなりました。
でも、やっと来た電車に乗りこんだら、又もや近くにフランソワ岡田君達の姿を発見。
もう電話はしていませんでしたが、何だか元気がなく、一緒にいる友人がフランソワ岡田君の肩をたたきながら「大丈夫だよ」を繰り返していました。
彼女を迎えに行くのが遅れた事を気にしているのでしょうか?
「もうそんな電車が遅れたなんて信じない!もういいわよ」と彼女が言ったのでしょうか?
それとも、ママが「車は貸せないわよ」と言ったのでしょうか?
野次馬妄想おばさんとしては、彼の恋の行方は気になる所ですけどねぇ。
やっと我が街の駅に着き、ちょっとうなだれて元気のないまま、友人と一緒に改札口に急ぐ
フランソワ岡田君。

でも、改札を抜けて外に出たら、もうすっかり暗くなって、頬を切るような冷たい風。
偶然、目の前に座っただけのご縁でしたが、恋する若者のフランソワ岡田君のお蔭で、こんな私にもあった甘酸っぱい青春時代を思い出し、フワッと心が温かくなりました。
そんな懐かしい日々を思い出させてくれた勝手にネーミングしちゃったフランソワ岡田君。
もう夜の街に消えて行ってしまったけれど、そっとエールを送ります。
悩む時もあるだろうけど、頑張れ!恋するフランソワ岡田君!
君の春は、もうすぐだ!
